大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和53年(ワ)1634号 判決 1979年8月30日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は、原告に対し、金一七一万七二五九円及びこれに対する昭和五三年四月二八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一 (交通事故の発生)

原告は、次の交通事故により、傷害を受けた。

1  発生時 昭和五三年三月二七日午後四時四五分頃

2  発生地 福岡市東区松島三丁目一一―一地先四ツ角路上

3  加害車 普通乗用車(福岡五六す四〇一七)

運転者 被告

4  被害車 普通乗用車(福岡四四ふ九九七)

運転者 谷素之、同乗者原告

5  事故の態様 松島一丁目方面から松崎方面に向け北進中の加害車が、流通センター方面から箱崎方面に向け西進中の被害車に衝突した。

6  傷害の部位、程度 むち打症兼打撲症

二 (責任原因)

本件事故現場は、四ツ角の交差点である。その南手前路上には、一時停止の標識が設置されていた。被告は、あらかじめ一時停止し、前方の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠つた過失により、本件事故を惹起したものである。よつて、被告は民法第七〇九条による責任がある。

三 (損害)

原告は、右の事故により、次の損害を受けた。

1  脇丸病院入院治療費金七四万円

原告は昭和五三年四月二七日から同年七月三〇日まで九五日間、脇丸整形外科病院に入院治療した。

2  入院諸雑費 金四万七五〇〇円

右入院期間中、一日金五〇〇円の割合による九五日分

3  通院費 金七八〇〇円

原告は、昭和五三年八月一日から同年九月三〇日までの間脇丸病院に通院した。一回金三〇〇円の割合による二六回分の交通費。

4  針治療費 金四万〇五〇〇円

原告が昭和五三年八月一日から同年九月三〇日までの間松田針医において治療を受けた代金。

5  休業損害 金九五万九四二七円

原告は、本件事故当時、福岡市東区箱崎流通センターやかた寿司店に勤務し、事故前三ケ月間の平均給与月額は、金二〇万円であつた。諸経費を控除した休業損害の日額は六一一一円が相当と考える。そこで、原告は、本件事故により昭和五三年四月二七日から同年九月三〇日まで一五七日間、就業することができなかつた。その結果給料として得られなかつた日額金六一一一円の割合による一五七日分

6  慰藉料 金六五万八〇〇〇円

原告は、本件事故により、精神的肉体的に多大の苦痛を被つた。これに対する慰藉料の額は、金六五万八〇〇〇円をもつて相当と考える。その内容は次のとおりである。

(1)  原告の前記入院期間中の慰藉料は一日金五〇〇〇円の割合による九五日分 四七万五〇〇〇円

(2)  原告の前記通院期間中の慰藉料は一日金三〇〇〇円の割合による六一日分 一八万三〇〇〇円

四 (過失相殺)

本件事故発生原因については、原告を同乗せしめた運転者谷素之にも、三〇パーセントの過失があることを認める。

五 よつて、原告は、被告に対し、前記損害合計金二四五万三二二七円から三〇パーセントを控除した損害金一七一万七二五九円とこれに対する本件事故発生の後である昭和五三年四月二八日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」

と述べ、抗弁に対し、

「一 抗弁一の主張は争う。

二 同二1の事実は認めるが、同2の事実は否認する。

被告が支払つたという金五〇万円は、原告の勤め先であるやかた寿司店の営業損害としてであつて、原告自身に支払われたものではないし、また受け取つてもいない。」

と述べた。〔証拠関係略〕

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一 請求原因一のうち5の事実は争う。同6の事実は知らない。その余の事実は認める。

二 同二の事実は否認する。

三 同三の事実は知らない。

原告の症状固定時期は、遅くとも、退院した昭和五三年七月三〇日である。」

と述べ、抗弁として、

「一 (過失相殺)

本件事故については、原告側の過失が、少くとも、三〇パーセント以上の割合で寄与している。損害額の算定にあたつては、これを考慮すべきである。

二 (損害の填補)

1  原告は、自賠責保険から金一〇〇万円の支払いを受けた。

2  被告は、原告の代理人である立和名成夫に対し、金五〇万円を支払つた。」

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一  請求原因一1乃至4の事実は、当事者間に争いがない。成立に争いのない乙第一号証の一乃至七及び被告本人尋問の結果を綜合すると、請求原因一5の事実が認められる。更に、同証拠によれば、本件事故現場は、交通整理の行われていない交差点で、加害車の進行していた松島一丁目方向から同五丁目方向にかけては、左方の見とおしが良くないものの、前方及び右方の見とおしは良かつたこと、一方、被害車の進行していた流通センター方向から松島四丁目方向にかけては、左右前方とも見とおしが良かつたこと、被告は、ガソリンスタンドを探しながら徐行して右交差点に近づき、標識に従つて、一時停車をしたものの、右方の安全確認不十分のまま、右交差点に進入しかかつたとき、右方から被害車の接近を認め、ハンドルを左へ切りかかつたが間に合わず、交差点中央を越えたところで衝突したこと、これに対して、本件事故後の実況見分の際、谷素之の指示説明したのは、加害車が左方道路から接近してくるのを認めていたが、同車は、一時停車をすることなく、高速で交差点に進入したというのであつたけれども、その指示に従つた位置距離関係とその説明とが符合しないばかりか、加害車の行動が極めて不自然な結果となることが認められる。弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認められる甲第二及び第三号証の各一、二に原告本人尋問の結果を綜合すると、請求原因一6の事実が認められる。

右事実によれば、形式的に一時停止したにとどまり、右方の確認を十分にしなかつた被告の過失を容易に肯認することができるので、被告は、民法第七〇九条により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償すべき責任があるというべきである。

二  原告の損害について

1  前顕甲第二及び第三号証の各一、二に原告本人尋問の結果を綜合すると、原告は、昭和五三年三月二八日から同年六月三〇日まで九五日間、脇丸整形外科に入院し、その後同年八月三一日までのうち二六回通院して治療を受けたこと、その治療費は、少くとも原告の主張額を要したことが認められる。

2  原告が右入院中諸雑費のため幾何かを支出したことは明らかであるから、その費用として一日金五〇〇円を相当と考える。その合計は、金四万七五〇〇円となる。

3  原告本人尋問の結果によれば、原告が通院のため支出した交通費は、一回往復金二〇〇円であつたことが認められるので、その合計は、金五二〇〇円となる。

4  甲第三及び第四号証によれば、原告は、昭和五三年五月二五日から同年七月二五日まで一九回松田整体治療院で加療を受け、合計金三万九三〇〇円を負担した記載があるけれども、右期間は、原告が脇丸整形外科に入院中も含まれていて、整形外科医の物療理学療法を受けていながら、同時に鍼治療を受けることの必要性を認むべき証拠はない。なお、原告本人尋問の結果によるも、右の点は明らかでなく、時期も右記載より後のこととも窺われる位である。従つて、右主張は、採用し得ない。

5  原告本人尋問の結果によると、原告は、右治療期間中、勤務先のやかた寿司を休み、一か月金一五万円位の給料も貰えなかつたことが認められる。これだけでは、必ずしも明確とはいえないにしても、他に資料のない以上、右認定に従い、五か月と五日間の右の額による休業損害を金七七万四一九四円と見るのを相当とする。

6  原告の受けた傷害の部位程度、その他本件に現れた一切の事情を綜合すると、原告の慰藉料は、金五〇万円をもつて相当と認める。

三  ところで、前顕乙第一号証の六及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、勤務先の被害車の助手席に同乗し、同僚の谷素之が運転中本件事故に至つたことが認められる。そして、前記認定のような本件事故の態様から考えると、原告側にも徐行義務違反などの過失があること明らかなので、加害車と被害車の過失割合は、双方同程度から、多くても七対三というべきであり、身分上、生活関係上一体をなすというべき谷の過失は、被害者側のそれとして、原告の損害算定にあたつて斟酌するのが相当である。そうすると、原告の損害額は、合計金一〇三万三四四七円から金一四四万六八二六円となる。

四  ところで、原告が自賠責保険から金一〇〇万円を受領したことは、当事者間に争いがない。

証人本松甫助の証言によつて真正に成立したと認められる乙第七号証に、同証言及び双方本人尋問の結果を綜合すると、被告は、その代理人である本松甫助を通じて、昭和五三年六月三〇日、原告の代理人である立和名成夫に金五〇万円を支払つたことが認められる。これに対し、原告は、立和名が受け取つたのが原告のためでなく、原告の勤務先の休業損害であると争い、原告本人尋問の結果中原告が立和名からそう説明を受けたとの部分があるが、これだけで右認定を覆すことはできない。なお、甲第五号証の成立には争いがあるが、その点は暫く措き、これには、被告が勤務先の大神孝志に対して修理代及び休車補償として金三七万〇八八一円を支払う旨の記載があり、前記証言によつて真正に成立したと認められる乙第四号証及び同証言によれば、被告が有限会社筥松ボデー(立和名取扱い)に金三七万〇八八一円を支払つたことが認められるだけである。

五  そうすると、原告の本訴請求は、理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 富田郁郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例